シネマ感想文13 〜 フレド・コルレオーネ

『ゴッドファーザー』
『ゴッドファーザーPART2』
『カンバセーション…盗聴…』
『狼たちの午後』
『ディア・ハンター』

1970年代を代表する5作品。アメリカン・ニューシネマの旗手たちによる傑作であり、すべての作品がアカデミー作品賞の候補作そして3作品が最優秀作品賞を受賞したハリウッド映画史における不朽の名作。この5本の映画は1978年に42歳で他界した俳優ジョン・カザールが生涯に出演したすべての作品でもあります。

『ゴッドファーザー』
(1972年、アメリカ映画)

この作品でジョン・カザールが演じたフレド・コルレオーネという人物。主人公ヴィトー・コルレオーネ(マーロン・ブランド)の次男であり、やがてファミリーの後継者となる三男マイケル(アル・パチーノ)の兄でありながら、気が弱く胆力に欠けやさしいだけが取り柄のマフィアの人間とは程遠い人物。出番も少なくいいところは何一つない役柄です。そしてこのシーン。

ー ヴィトーの外出に同行したフレド。
運転手の裏切りを見抜けず、ヴィトーが果物店で買い物をしているときに敵対組織の銃撃を受けます。動揺したフレドは拳銃をまともに握ることもできず、一発の銃弾も撃てないまま刺客を取り逃がし、背中から血を流し倒れる父の傍らに膝をつき、頭を掻きむしりながら「パパ!」と叫ぶしかないフレド。

そのあまりにも惨めなジョン・カザールの演技は彼の広い額と深く窪んだ眼窩と力ない上目使いという独特の異貌とともに観客の瞼に焼き付けられます。この惨めさは、ヴィトーが最も守りたかった「家族」というものが裏社会を生きることの代償として砂上の楼閣のごとく弱く儚いものであることを象徴しているともいえます。

さらに『PART2』(1974年)で弟マイケルは愚かな兄フレドの裏切りを許すことなく彼を殺してしまいます。マイケルは父の深い家族愛で育まれたかけがえのない兄の命を自らの手で奪った大罪を背負い続けることになります。そして物語の20年後を描いた『PART3』(1990年)、年老いたマイケルのどこか陰鬱とした表情の裏側に観客は上目使いで弟を見つめる兄フレドの面影を思い浮かべています。それは俳優ジョン・カザールがこの世を去って12年の歳月が流れてもなお鮮明に蘇る面影でもあります。

『ゴッドファーザー』シリーズの暗く深い底を流れる「家族の愛と絆」というテーマを支えたのは間違いなくフレド・コルレオーネを演じたジョン・カザールの演技と役者魂を宿したその容貌といえそうです。

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