シネマ感想文16 〜 ヒーローの嗜み

『ボディガード』
(1992年、アメリカ映画)

監督 ミック・ジャクソン、出演 ケビン・コスナー、ホイットニー・ヒューストン。

フランク・ファーマー(ケビン・コスナー)は世界でも屈指の実力を持つボディガード。ある時、歌手兼女優のスーパースター、レイチェル・マロン(ホイットニー・ヒューストン)の警護を依頼されるが・・・といったストーリー。

1990年代を代表するサスペンス・アクション映画の名作。この作品には印象深い場面が二つありました。ひとつはホイットニー・ヒューストンが劇中で歌う主題歌『I Will Always Love You』ですね。彼女の歌声とともに迎えるラストシーン。二人の別れと新たなスタートを象徴する、演説を行う宗教家の背後で警護につくフランクの姿。音楽と相まって多くの映画ファンの心に残る名シーンといえそうですね。

しかしながら、この作品を観て最も印象に残ったこと、心に残ったことは他にあります。それは主人公フランクが〈オレンジジュース〉を飲むシーン。この映画では〈オレンジジュース〉が何度も登場します。しかし物語を展開させるような意味のあるものではありません。それなのに30年以上前に観たこの映画を今思い返したときに瞼に浮かぶのはなぜか〈オレンジジュース〉です。

これにはどうやら理由があるようです。わずか2時間しかない映画の中で、登場人物の個性を印象付けるには何かしらの癖や嗜好を持たせることが手っ取り早い方法です。その人物が主人公でヒーローとなればより効果的といえます。さりとて凄腕のボディガード、フランク・ファーマーの嗜好品が煙草やコーヒーでは面白くありません。やはり超一流のプロとして絶えず己を律している彼には〈オレンジジュース〉がたまらなくよく似合うといえそうです。

映画に登場するヒーローたちはその個性を印象付ける何かしらの嗜好を持っているものです。それは過去の名作が証明しています。ハングリーな『ロッキー』は〈生卵〉を飲みました、純粋な『レオン』は〈牛乳〉を飲みます、そしてストイックな『力石徹』は〈リンゴ〉をかじります。それらはすべて名場面ではなくヒーローの象徴として憧れとともに映画ファンの心に深く刻まれるようですね。

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