「大和田常務」

前作に続いて視聴率30%超えの社会現象となったTVドラマ「半沢直樹」。今回はシリーズを通して最大のライバルである大和田常務に視点をあてて感想文をあげてみます

最終回のラスト、大和田常務と半沢次長の対峙シーン。大和田は半沢の父親を死にまで追い込んだ融資の撤退は間違っていなかったと言い切ります。取引において利益をもたらす見込みのない弱き者は排除する。冷酷非情といわれようが銀行員大和田にとっては当たり前の判断であり揺るぎない信念であることを気づかされます。一方、銀行員半沢はその弱き者にこそ手を差し伸べて献身的に援助するべきとする信念。二人は真っ向から対立します。

この二人の対比は我々社会人、とくに会社組織に属する一般サラリーマンにとっては自らの心の葛藤を象徴しているものといえます。信念〈半沢〉でありたいと思いながらも、自分のため、家族のために会社の利益を最優先する信念〈大和田〉であり続けなければならない。大なり小なりこの経験はあり、むしろこのジレンマの連続ともいえます。

そんな葛藤に悩む我々にドラマはさらに教えてくれます。対立する半沢と大和田、しかしながら中野渡頭取は共に最高のバンカーであると評価します。その最高のバンカー二人が協力し合ったとき、巨悪の権力(箕部幹事長)をも倒すことができる。我々はジレンマと戦いながらも二つの信念を併せ持つからこそ偉大な力を発揮できるのかもしれません。

大和田が半沢の辞表を破り捨てながら罵詈雑言を浴びせます。しかしそれは皮肉すぎる激励の言葉であり意訳するならば「お互いに蹴落とし合うだけの争いはやめた。次の戦いは半沢自身の中の戦いだ。一切ジャマはしないからお前のいう正義と信念で頭取という頂点に登りつめてみろ。やれるものならやってみろ、あばよ!」となり、奮い立つ半沢の顔面でエンディングとなりました。

原作者の池井戸潤さんは、半沢が頭取になるまで書き続けるとコメントしているようです。やがて半沢頭取が誕生したとき、達観した彼はここまで自分を奮い立たせ続けてくれた最大のライバル大和田に対して、やはりこう叫ぶでしょうか。「感謝の倍返しだー!つまり恩返しだー!」

お問い合わせ
PAGE TOP