はがきでこんにちわ

「こんにちわ近石さん。先日、3歳になる孫娘と手をつないで散歩していると、突然、孫娘が横断歩道の白いところだけを踏もうとピョンピョン跳び始めたんだよ。誰が教えたわけでもないのに、その無邪気な様子が愛らしくていじらしくて、なんだか涙出てきちゃった。こんなんでいいかなあ、さよなら。」

9月25日、TBSラジオの番組コーナー「近石真介のはがきでこんにちわ」が49年の長い歴史に幕を閉じ、最終回を迎えました。近石さんといえば俳優・声優・ラジオパーソナリティとして活躍された御歳89の大ベテラン、サザエさんの初代マスオさんや、いい旅夢気分のナレーションといえばおわかりになるでしょう。そんな近石さんが江戸っ子気質の調子のいい軽妙な語り口でリスナーから寄せられた一枚のはがきを紹介する5分程の番組でした。

はがきの内容はというと、冒頭のような日常のありふれた出来事、亭主の愚痴から家族の泣き笑いと様々です。また近石さんには、はがきを読む際にいくつかの流儀があり、匿名希望はすべて女性はゴン子さん、男性はゴンベエさんと紹介します。さらに女性の場合は毎回、文尾が「なのよ〜」や「こんなんでいいかしら」など、実際には書かれていないであろう口語体に変換されます。このテキトー感がとても楽しい上に、不特定多数のはずの投稿者が、まるで世話好きの明るいとなりのおばちゃん的同一人物に話し掛けられているような親近感に包まれます。

近石さんは「みなさん、思ったこと感じたことなんでもいいんだ、番組にお裾分けしてくださいな」と常々言います。〈幸せ〉をお裾分けとは言いません。〈喜びも悲しみ〉もお裾分けしてくださいと言うのです。そんな近石さんの優しさに触れ、ささやかな感動で綴られるはがきの内容を聞いていると、阿弥陀様の前で手を合わせ、夕べに感謝する心持ちと相通じるものを感じます。

最終回であることは一切予告もなく、放送残り30秒で突然「今日が最終回です」との告知。拍子抜けするほどの呆気なさも近石流の美学に思えてなりません。そして後任は六代目三遊亭圓楽さんです。ナイス人選ですね。

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