「お客様を笑顔にすること」この言葉はゲーム機メーカー〈任天堂〉の企業理念です。一見よくありがちなスローガンのようですが、〈任天堂〉の偉大さは、この言葉をうわ言や戯れ言ではなく、絶対的な理念として本気で取り組んでいることといえそうです。
十数年前。
子供に買い与えた携帯ゲーム機〈ニンテンドーDS〉が故障したときのこと。〈任天堂〉サービスセンターに電話をすると、担当の方から「どのような故障でしょうか?」といった質問を受け、さらに「修理用の〈発送キット〉を送るので任天堂へ故障品を発送してください」と説明を受けます。やがて翌々日には届いた〈発送キット〉といわれる小さなダンボール箱を組み立て、故障品を入れて発送します。すると10日ほど過ぎた頃、同じ箱が届き、中には見事に修理された製品と手紙が添えられており、具体的な修理内容と丁寧な挨拶文が書かれていました。
この一連のやりとりが、どれほど感慨深いものだったのかを解説しなければなりません。
そもそも、この故障の原因は不注意で落下させた衝撃によるものです。サービスセンターに電話をしたものの、予想していたのは有償での修理であり、あるいは門前払いすら覚悟していたものです。ところが担当の方からは「故障の原因」という最も重要で、最も答えたくない質問を受けた記憶がなく、修理のための手順を説明されるばかりです。この質問するべき質問をしないことが(お子さんを笑顔にするために、とにかく早く修理しましょう)と伝えているかのごとく心に響きます。
〈発送キット〉といわれる修理品の発送方法にも感心させられます。まず〈発送キット〉が送られてきたことで修理を受け入れてもらえたという安心感を得ます。そして緩衝シート付きの専用箱は輸送中のトラブルもなく安全。さらにはゆうパックの着払い送り状とこわれものシールまで用意されている心配りです。
親切、丁寧、迅速、簡潔、安全、安心・・
かつて家電製品などをメーカーや販売店に修理依頼をした経験が幾度かありますが、この〈任天堂〉のサービス対応を超えるものはないと実感した出来事でした。
部屋の片隅の引き出しの中で、この〈ニンテンドーDS〉は今も眠っています。何気なしに電源を入れてみると、青色のランプが点灯し、液晶画面にはくっきりと「Nintendo」のロゴが浮かび上がります。
あれから十数年。壊れることなく浮かび上がるこの奇跡のロゴは、「子どもたちを笑顔にする」という〈任天堂〉の壊れることのない決意の象徴といえるかもしれませんね。