何気なしにテレビをつけて、はじめて知るその番組のタイトルと内容からして、あまり期待もせず視聴したところ、終わってみれば多くの感銘を受けていた。それがNHK「ドキュメント72時間」ではないでしょうか。ある場所を特定し、そこを訪れる人々を72時間つまり3日間インタビュー取材をするというシンプルすぎるドキュメンタリーですね。「ここにはよく来られるんですか?」と問い掛けるインタビューは訪れる人々のその場所との関わりや思い入れから始まり、その先のささやかな喜びや笑いや感動、あるいは人知れず抱えていた悲しみや不安や悩み、それらを乗り越えた上での感謝や思いやりなど様々なエピソードを引き出していきます。ごく普通の一般の方々が日常の場面で語る言葉だからこそわたしたちは共感し感動を覚えるのかもしれませんね。
ある回では秋田県の漁港近くのドライブインにある”うどんの自動販売機”が舞台となり、管理者の高齢化などでまもなく販売終了となる最後の3日間を取材していました。ある人は子供の頃から通ったこの自動販売機がなくなることを聞きつけ、わが子とともに思い出を刻む最後の一杯を食べにきています。ある人は毎晩深夜にこの場所でうどんをかき込み、腹ごしらえをしてから夜勤の仕事に向かいます。ある人は重い病気の精密検査の結果通知を待っており、不安を抱えながら気分を紛らわしに訪れていました。同じ場所のわずか72時間を切り取っただけでこれだけ多くの人間模様に触れることに驚かされます。そしてその場所を去っていく人を追いかけることはせず、後ろ姿で余韻を残しながら、カラリと次の訪問者に取材は移ります。なんともいえない徒然感がより心に染み込んでいくようで、とても良い場面だと感じます。
そういえば身近に「72時間」の心あたりが。当院本堂のご本尊の前で、合掌し御念仏を称えられている方々の姿を拝見しながら、亡き人を偲んでおられるのかな、報恩感謝されてるのかな、と思わせていただくのも「72時間」と同じ感動をいただいているといえそうです。