『再会の街 / ブライトライツ・ビッグシティ』
(1988年、アメリカ映画)
原作はジェイ・マキナニーが1984年に発表したベストセラー小説。主演はマイケル・J・フォックス。共演にキーファー・サザーランド、フィービー・ケイツ、他。人気絶頂期のマイケル・J・フォックスがシリアスな演技で挑んだ意欲作。
物語は、作家になることを夢見てニューヨークに住み、出版社に勤める青年 ジェイミー・コンウェイ(マイケル・J・フォックス)が、愛する妻から別れを告げられ、母親を亡くし、アルコールとドラッグに溺れ、やがて仕事も失い、人生のどん底まで堕ちていく様子を描いた作品ですね。
ところが結末はといえば、
「ハッピーエンド」
最後の最後の20秒で彼は立ち直ります。
30年以上前に一度だけ観た映画ですが、このラストシーンの記憶だけが鮮やかに残っています。正しくは、主題歌が流れていたり、ジェイミーが自らの心情を語るナレーションがあったり、彼が立ち直ったことを暗示する重要な伏線回収のワンカットがあったりしたはずですが、それらはうろ覚えで、とにかく鮮明に覚えているのは、彼がパンを食べているその仕草。
そのラストシーン。
ニューヨークの早朝、
摩天楼の高層ビル群を望む、
ハドソンの湾岸の堤に腰掛けて、
彼が左手でちぎったパンにかじりつきます、
そしてうつむきながらひと口、
そして思いを巡らしながらもうひと口、
ひとつ深呼吸したあと、
うなずきながら一気にふた口ほおばり、
彼は顔を高く上げて摩天楼を眺めます。
彼を立ち直らせた一個のパン。
このシーンの直前、彼が通りかかった街角のパン屋の前で、配送トラックに積み込まれる焼きたてのパンの香りに、ふと、家族のために毎朝パンを焼いてくれた優しい母親の面影を思い出し、彼が掛けていたサングラスと交換して手に入れたパンでした。
失意のどん底からもう一度やり直すには、焼きたてのパンにかじりつく、それだけで十分だったんですね。
残念ながら、この映画のDVDは発売されておらず、VHSビデオも廃盤、ネット配信もありません。ぜひ復刻していただいて、もう一度全編を観たいものですね。