ご門徒さんから伺ったお話を紹介します。
白内障による視力低下と目のかすみに悩まされ、いよいよ意を決して白内障の治療手術をしたところ、驚くほど視力が回復し、とても喜んでおられたそうです。ところがあるとき、ふと鏡を見ると、我が身の老いさらばえた姿がありのままによく見えて、とてもガッカリしたとのこと。さらに家の中のゴミやほこりもよく見えるようになり、掃除ばかりする羽目になったと嘆いておられました。
ご本人はこれを笑い話にされていましたが、いやいやとても有り難い貴重なお話しをいただいたと感謝しております。
このエピソードにはお釈迦さまのお教えがたくさん詰まっているといえそうです。
仏教の真理のひとつに「一切皆苦(いっさいかいく)」というものがあります。〈苦〉=〈思い通りにならない〉、つまり人生は何ごとも思い通りにはならないという真理。
仏教においては〈苦〉を除きたい、逃れたいと思う心も〈欲〉のひとつとされます。〈欲〉はひとつ満たされれば、満たされたことによる新たな〈苦〉が待っている。この四苦八苦に満ちた「一切皆苦」の世界を、人生の大前提として受け止めること、受け入れること。仏教のすべての教えはここからスタートしているといってもよいかもしれません。
さて、白内障を克服されたご門徒さん、新たな〈苦〉の連続に見舞われて、さぞかし落ち込まれたことかと思われますが、なによりご本人がこのことを笑い飛ばしながらお話しされているということは、すでに仏教のひとつの真理に浸されておられるともいえそうですね。
とても素晴らしいお話しを聞かせていただきました。