『昴』〜谷村新司さん追悼

2023年10月8日 シンガーソングライターの谷村新司さんが他界されました。享年74歳。

谷村新司さん率いる〈アリス〉時代の音楽を知る世代だからこそ伝えられる谷村さんの思い出を述べてみることにします。
1970年代半ば、谷村さんはアリスで活躍する一方、ラジオパーソナリティとしても絶大な人気を得ていました。そして谷村さんのラジオはとにかくバカバカしい。アリスのヒット曲「冬の稲妻」の「ユアローリン、サンダー」のあとの「ああ〜〜」を入れるのに苦労したことなど谷村さんの滑らかな関西弁で語られる面白エピソードとふざけたネタコーナーには抱腹絶倒で笑わされたものです。アリスで帽子を目深に被り一心に歌い上げる姿からは到底想像できない面白い方で、彼の抜群のトーク技術とユーモアセンスは間違いなくお笑い芸人を凌ぐものでした。

そんな谷村さんがアリスの活動とラジオDJをされていた1978年に発表された一曲が山口百恵さんが歌う「いい日旅立ち」作詞作曲・谷村新司。こんな綺麗な歌をあのラジオの谷村さんが書いたのかと当時は驚きました。しかし今に思えばあのラジオの谷村さんだからこそこの歌を書くことができたともいえそうです。優れた話術やユーモアセンスとは人の心の機微を繊細に感じとる能力でもあります。日本人の心に沁み入る優しいメロディと叙情的な言葉の数々。名曲「いい日旅立ち」はラジオパーソナリティ谷村新司の傑作だったといえるかもしれませんね。

谷村新司さんの歌が日本のみならずアジアの国々で愛されていることはよく知られています。とくに中国にはゆかりが深く、2010年の上海万博の開会式。日本代表で登場した谷村さんは名曲「昴」を歌い上げ、現地の人々に大きな感動を与えたそうです。中国の改革・開放の激動の時運に青春時代を送ったいわゆる「文革世代」にとっては1980〜90年代に、何らかの機会に谷村さんの曲の香港バージョン、台湾バージョンを聴いたことが「青春の思い出」となっており、「昴」の大陸を彷彿とさせる勇壮なメロディと漢詩の如き雄大な歌詞は、困難な時代を生き抜く人々の心に多くの癒しと勇気を与えたようです。

「歌と音楽は目に見えないからこそ海も空も超えていく」

谷村新司さんの言葉です。「昴」はそれを証明した一曲に違いありません。

合掌

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