ステージの真横の特権

11月25日 名古屋・日本ガイシホール。
この日この会場で開催された矢沢永吉さんのコンサートを観に行ってきたという同世代の知人がそのライブの様子を詳しく聞かせてくれました。彼は矢沢永吉さんのコンサートに初めて参加して多くの感動を覚えたのですが、その中でもとくに印象に残ったという二つのエピソードを紹介してみることにします。

コンサートにおける演奏曲の曲順というものはセットリストといわれ、観客やファンにとっても最も気になる注目ポイントのようです。そして知人の彼はコンサートも後半を過ぎた頃、その曲順についてあることに気付いたようです。それは観客席で立ったまま3〜4曲ほど手拍子しながら身体を揺らしていると、手は痛くなるし、心肺もしんどくなり、スタミナがなくなり体力の限界が近づきます。すると必ずそのあとスローな曲になり、観客は皆静かに座り始めしっとりとバラードを聴く時間帯に変わります。これはきっと平均年齢60歳前後の観客に対して矢沢さんが気を使って休憩させてくれているんだと確信したそうです。そして彼が休憩している間も矢沢さんは休むことなく立ったまま歌い続けている。今年74歳を迎えた矢沢永吉さんに対して本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになったと語ってくれました。

コンサート会場での彼の座席はスタンド席の一番端っこ、ステージの真横、歌っている矢沢さんを真横から観る位置で矢沢さんの前後の動きだけはよくわかる席だったそうです。そしてライブもアンコール曲になったとき彼は考えました。彼がいる座席の特長として矢沢さんが最後のアンコール曲を終えてステージの中央から舞台そでの仮設の控え小屋に戻ってくるまでの数メートルの間、彼とその周辺の観客だけが矢沢さんの最後の様子を見ることができると。やがてアンコール曲が終わり、矢沢さんがお決まりの締めの言葉、「このあと美味いビール飲んで帰ってください」と深々と頭を下げて、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきます。そして彼は真横のスタンド席の唯一の特権としてステージを去る矢沢さんを正面から見届けました。

矢沢永吉さんの最後の表情は、満面の笑顔だったそうです。

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