〈現在〉との向き合い方

アメリカのアカデミー賞の前哨戦とされる映画賞、第81回ゴールデングローブ賞のアニメ映画部門で候補に挙がっていた宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』がアニメーション映画賞を受賞しました。

この映画のタイトルは1937年に初版された吉野源三郎氏の同名小説が由来となっているそうです。この『君たちはどう生きるか』に少し言葉を補足すると「この先の〈未来〉をどう生きるか」という解釈ができます。もし仮にこのタイトルが『君たちはどう生きたか』であれば「これまでの〈過去〉をどう生きたか」という〈過去〉と〈未来〉の対比になります。そして両氏が選んだタイトルはあくまでも〈未来〉。大切なことは〈過去〉ではなく〈未来〉の君たちだという余白のメッセージが込められているともいえますね。

しかしそうは言われても私たちは〈過去〉のことがどうしても気になり、こだわり、悩まされるものです。〈過去〉の過ちを後悔している人、〈過去〉に前例がないからと諦めている人など。人は〈過去〉とどのように向き合えば良いのか。かつての哲学者や著名人が〈過去〉にまつわる格言を残しています。

『今日の成果は過去の努力の結果であり、未来はこれからの努力で決まる。』
稲盛和夫

『不幸な時に幸福だった日々を思い出すことほど悲しいことはない。』
ダンテ

『われわれは現在だけを耐え忍べばよい。過去にも未来にも苦しむ必要はない。過去はもう存在しないし、未来はまだ存在していないのだから。』
アラン

『過去には帽子を脱いで敬意を表し、未来には上着を脱いで立ち向かいなさい。』
クレア・ブース・ルース

これらの言葉の真意と仏教の世界観とは共通点を見出すことができそうです。それは〈過去〉でも〈未来〉でもなく、今〈現在〉が最も重要であるということ。仏教における過去・現在・未来の概念は、前世・現世・後世の「三世(さんぜ)」といいます。しかしこの三世は人生の時間軸を区分したものではなく、存在するものの変遷として解釈します。そして仏教のお教えは三世の中でも現世を問題としています。〈過去〉は過ぎ去ったもの、〈未来〉は未だ来ないもの、存在しているのは〈現在〉だけです。つまり〈今〉がすべてという考え方。それは人生の時間軸に置きかえても同じといえそうです。

今〈現在〉が最も重要とあれば、映画のタイトルはこれで間違いありません。

『君たちはどう生きているか』

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