ある50代男性の知人から伺った体験談です。
彼は子供の頃のある苦い記憶を今もなお忘れられないでいます。どうやら生涯消え去ることはないだろうと覚悟している様子。
それは彼が小学5年生のある日の休み時間のこと、となりのクラスの身体が小さく気も弱いいじめられっ子の児童と廊下で出くわしたとき、彼は悪ふざけでその児童にめちゃくちゃな言いがかりをつけて、思い切り児童の頬を平手打ちしたそうです。すると殴り飛ばされたその児童は打たれた頬に手を当てながら、両目に涙をいっぱい浮かべて呆然と彼を見つめていたそうです。普段から明るく誰とも親しくして、いじめに加わることもなかった自分がなぜこんなことをしたのか、当時もそして今も彼自身わからないと話していました。
そして彼が中学生になったある日の出来事。多くの生徒がいる校庭で、彼は学年主任の教員から完全なる誤解を受けて力任せのビンタを二度されたそうです。彼は頬の痛さと身に覚えのない理由で殴られた悔しさ、多くの生徒の前で受けた恥ずかしさやらで、その場で涙が溢れ落ちてしまったそうです。やがて誤解は解かれたにも関わらずその教員から一切謝罪はありませんでした。
その後、月日が過ぎていく中で、彼はどうしてもこの悔し涙を忘れることができませんでした。そしてこの出来事を思い出すたびに、小学5年生のあの平手打ちのことも同時に思い出すようになりました。こんな理不尽な悔しい思いをあの同級生の彼にもさせてしまったんだと、ようやく自らの愚かさに気付いたと話してくれました。
それから数十年の歳月が流れた今でも、両目に涙を浮かべて彼を見つめる同級生の表情がふと思い出され胸の辺りを締め付けられるとのことです。そして彼はその後一切人に手を上げることはなかったと言い、今となっては消息もわからないあの同級生ともし再会することが叶えば、心から謝りたいとも語ってくれました。
まことに「小学5年生の平手打ち」とは罪深いことです。ここにもおひとり〈罪悪深重の凡夫〉がおられたようですね。
心に響くお話しを聞かせていただき感謝しております。