仏事の雑学③ 〜 梵鐘

名句十選にもあげられる、
「柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺」
明治期の1895年に正岡子規によって詠まれたあまりにも有名な一句であります。

少し時代は遡り、江戸期を描く時代小説に、
「浅草寺の明け六つ(6時)が響くと…」
とあれば、鐘の音が江戸の町の庶民の生活の一部であった様子がうかがえます。

さらに遡りますと、1614年の〈大坂の陣〉の契機の一つといわれる、梵鐘に彫られた鐘銘文〈国家安康 君臣豊楽〉をめぐる、
「方広寺鐘銘事件」
一つの梵鐘が歴史をも動かすこととなります。

もっと遡りますと、鎌倉時代に成立したとされる〈平家物語〉の書き出し、
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」
誰もが古文の授業で習う名文ですね。

これらの日本史に共通するものはもちろん、お寺の釣り鐘、〈梵鐘〉であります。今回はお寺に行けば必ず境内で見かける梵鐘について取り上げてみます。まずはその歴史。仏教の起源はインドですが、梵鐘に関しては仏教がアジア各地に広まった後の古代中国の殷・周の時代の青銅器がルーツとされています。やがて日本に梵鐘が渡来したのは592年という記録があり、現存するものでは京都・妙心寺の梵鐘(国宝)が内面の銘から698年に製作されたものとして日本最古の梵鐘とされています。

次に大きさについて、梵鐘は口径が一尺五寸(45.5cm)、重量23貫目(86kg)以上のものを指し、これより小さいものは半鐘と呼ばれます。そして世界最大といわれる梵鐘は日本にあり、熊本県の蓮華院誕生寺・奥之院の「飛龍の鐘」は、直径2.88m、高さ4.55m、重さは「満願」に通じる一万貫(37.5トン)を誇るそうですね。

そして最後に忘れていけないことが、日本における梵鐘が第二次大戦時に出された金属類回収令によって文化財に指定されている一部の例外を除き、およそ9割が失われたということ。お寺の釣り鐘がいつまでも変わらず境内にあり続けるということが平和な日常を象徴しているともいえそうです。

飛鳥時代から令和の現在まで、1400年の歳月が流れても変わらないもの、それはお寺の鐘の音をおいて他にはないかもしれません。大切にしたいものです。

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