2000年代最強の元男子プロテニスプレイヤー、ロジャー・フェデラーは日本の記者から「なぜ日本にはあなたのような選手が出てこないのか?」と問われ、「日本には〈シンゴ〉がいるじゃないか」と答えたという有名なエピソードがあります。
もちろん〈シンゴ〉とは元プロ車いすテニスプレイヤー国枝慎吾さんのことですね。2023年1月に世界ランキング1位のまま現役引退した国枝さんの偉業を改めて拝見すると、
・グランドスラム車いす部門で男子世界歴代最多となる計50回(シングルス28回、ダブルス22回)優勝の記録保持者
・年間最終世界ランキング1位を10回記録
・パラリンピックでは金メダルをシングルス3個、ダブルス1個獲得、5大会連続でメダル獲得
引退後の2023年3月には日本国政府より国民栄誉賞を授与された日本が誇る「車いすテニス界のレジェンド」でもあります。
国枝さんを取材したNHKの特集記事をみておりますと、彼のインタビューでの回答がとても印象に残りました。それらは身体や技術のことではありません。すべてメンタルの問題、〈心〉についての言葉の数々です。
ー 脊髄腫瘍を発症し、車いす生活になった9歳の頃を振り返り、
「周りの友達にすごく支えてもらったかなと思います。ただ友達に『支えてもらう』というよりも、一緒に楽しく毎日を過ごしたことが、自分自身の気持ちを明るくしたと思います。」
ー 11歳のとき、母親に連れられて行ったテニスコートで車いすテニスに出会って、
「車いすテニスに出会えたことはもちろんなんですけれど、実際に車いすの人と出会うのが、その場所が初めてだったんです。車いすテニスをやることで、車いすの先輩方がどんなふうに生きているのかを知った。先輩方が一人暮らしをして、自分で車を運転して、自分自身のことを全部自分でやっている姿を見て『あ、車いすでも普通に生きていけるんだな』と思えたことが、小学生ながらにすごく希望を持てることでした。」
国枝さんの言葉から学べることは、彼の〈心〉のあり様ではなく、彼を取り巻く人々、彼と親しく接してきた人たちの〈心〉の寄り添い方といえそうです。支えることよりも一緒に楽しく過ごすこと、教えるよりもやって見せること、そんな周りの人たちの何気ない姿にこそ励まされ、希望と勇気をもらえるものかもしれませんね。
やがて世界最強のアスリートとなった国枝さんが一番効果があったというメンタルトレーニングを紹介します。それは「オレは最強だ!」と断言するトレーニング。「最強になりたい」ではダメです。2時間、3時間と続く試合ではどうしても弱気になってしまう場面が必ずあり、弱気になるとサーブも入らなくなるそうです。「オレは最強だ!」のフレーズで弱気の虫を飛ばすのが効果絶大とのことです。