2024年10月17日、俳優・西田敏行さんが他界されました。享年76歳。
西田敏行さんの代表作は?と問われれば、多くの方が映画『釣りバカ日誌』シリーズを挙げられることでしょう。1988年に第1作が劇場公開されて、2009年の第20作までの22年間、映画ファンに愛され続けた名作シリーズですね。
しかしながら、私たちの世代を代表して、西田さんの傑作を一つ選ぶとするならば、テレビドラマ、
『池中玄太80キロ』
(1980年、日本テレビ製作)
で間違いありません。通信社に勤めるカメラマン・池中玄太が結婚して間もなく妻を亡くし、三姉妹の子供のシングルファーザーとして子育てに奮闘するホームドラマ。放映当時の平均視聴率は軽く20%を超え、のちにシリーズがパート3まで製作された大ヒットドラマです。そして40年以上も前に観たこのドラマの中で今も鮮明に覚えているシーンがあります。
このドラマでは玄太の職場である通信社のビルの一室を舞台にして、毎回必ず大喧嘩が始まります。上司役である長門裕之さんvs西田さん、あるいは同僚役である三浦洋一さvs西田さんなど。あるときは怒りが頂点に達した玄太役の西田さんが長門裕之さんの長く伸びたモミアゲのあたりに両手をかざして、手をプルプルと震わせて「うーーっ」と唸りながらむしり取るのを我慢する場面であったり、同じく興奮した西田さんが三浦洋一さんのトレードマークであるリーゼントヘアに向かって「この頭ゴキブリがーっ!」と絶叫する場面であったり。台本に「モミアゲをむしり取る」とか「頭ゴキブリ」など書いてあるはずがないので間違いなくこれらは西田さんのアドリブです。
西田さんがアドリブの台詞や芝居を入れる常習犯であることは有名な話ですね。共演者が「乗ってくるとジャズみたい」と語られたことがあります。ドラマでは池中玄太になりきった西田さんが台本では表現しきれない感情の昂ぶりをまさにジャズのセッションのごとく表現していたに違いありません。だからこそ真っ先に思い浮かぶシーンが、西田さんの渾身のアドリブの芝居ばかりなのかも知れませんね。
『池中玄太80キロ』 西田敏行さんが当時33歳、ドラマ初主演での偉業でもあります。ご冥福をお祈りします。