作詞の世界④ 〜 鉄腕アトム

空をこえて ラララ
星のかなた
ゆくぞ アトム
ジェットのかぎり
心やさしい ラララ
科学の子
十万馬力だ
鉄腕アトム

耳をすませ ラララ
目をみはれ
そうだ アトム
ゆだんするな
心ただしい ラララ
科学の子
七つの威力さ
鉄腕アトム

町角に ラララ
海のそこに
今日も アトム
人間まもって
心はずむ ラララ
科学の子
みんなのともだち
鉄腕アトム

作詞:谷川俊太郎
作曲:高井達雄
1963年

国民的TVアニメ『鉄腕アトム』の主題歌。
このアニメの放送開始当初のオープニングは歌詞のないインストゥルメンタルだったそうです。元気で明るいマーチ風のこの楽曲は歌詞がなくても十分素晴らしいのですが、放送開始しばらくして原作者の手塚治虫さん直々の依頼で詩人・谷川俊太郎さんがこの曲に詞をつけることになります。

その歌詞全文を読み思うことは、2番と3番の歌詞はあえて凡庸な仕上がりにしたのではないか、たしかにTVアニメの主題歌とは映像とともに流れるオープニングの約30秒ほどがすべてと言っても過言ではありません。谷川さんはそれを承知で1番の歌詞に何もかもを詰め込んだ。そう感じるほどに1番の歌詞が際立っています。冒頭の「空をこえて 星のかなた」では壮大なスケールを描きます。さらに「ジェットのかぎり」「心やさしい科学の子」「十万馬力」で主人公アトムのプロフィールを余すことなく伝えます。そして何をおいても秀逸なのが「ラララ」の三文字といえそうです。

この「ラララ」について谷川さんは「じつは窮余の一策でした」と後に語られていますが、きっとご謙遜です。わずか30秒の短い楽曲に、一語たりとも無駄な言葉は入れたくないはずです。谷川さんは言葉がもつ意味とともに、言葉が発する音あるいは響きというものにも人の心を動かす力が宿っていることを知りぬいていた。だからこそ大切な一語に「ラララ」を使ったに違いありませんね。60年後の今もなお、私たちを胸躍らせる「ラララ」という言葉の力です。

2024年の締めくくり、11月13日に他界された谷川俊太郎さんを偲び、また新たに迎える2025年がこの歌のように明るく元気で胸躍る一年であることを願い、この一曲を選んでみました。
皆さまよいお年を。

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